第1話「引きこもりニートが社会問題に直面した日 ─ コミュ障男子と“NEET-X”」

登場人物紹介

  • 白崎 直人(しらさき なおと):25歳。大学中退後、就職活動に失敗し4年間引きこもり生活。重度のコミュ障で、親とすら目を合わせられない。
  • 黒峰 クロウ(くろみね クロウ):コードネーム“NEET-X”。かつて伝説的なニートだった男。現在は「ニート進化計画」の実行者として活動。冷静沈着で論理的。
  • 白崎 真由美(しらさき まゆみ):直人の母。スーパーでパート勤務。息子を案じているが、距離感に悩んでいる。
  • リセット機構:政府にも存在を知られていない、民間主導の極秘社会管理組織。一定期間社会参加がない人間を“静かに社会から消去”することを目的としている。

午後2時13分のニート

目が覚めたのは午後2時13分。

白崎直人は、もはや目覚めというより、意識が浮上しただけだった。スマホには通知が溜まり、ゲーム機の電源はつけっぱなし。カーテンは閉じきられ、空気は濁り、時間の感覚すら曖昧だった。

「また寝過ごした……って、別に用事あるわけじゃないけどな」

無意味な独り言を吐く。 誰かに届いてほしいわけでも、誰かに聞かれる心配もない。

大学を中退して4年。 その間、バイトも面接もすべてうまくいかなかった。 人と話すことが怖くて、LINEの返信すら苦痛だった。

そんな“引きこもり”という名の牢獄に、彼は自然と閉じ込められていた。


「宅配便です!」──それは警告の訪問

突然、インターホンが鳴った。

「宅配便です!」

通販なんて最近していない。インターホンのモニター越しにいかにも怪しい男が映っていた。

ドアチェーンをしたまま、恐る恐る玄関を少し開けると、黒いコートを着た男が段ボールを抱えて立っていた。 男の顔には妙に整った笑みが浮かんでいた。

「白崎直人さんですね? 書類にサインをお願いします」

ドアの隙間から半ば強引に受け取った封筒。そこには大きな文字があった。

『抹消対象通知書』

・・・なんだこれ?

その場で封筒を開き、中の書類に目を通した直人の顔色が変わる。


『抹消対象通知書』の中身

対象者氏名:白崎直人
判定:社会的自立困難者
猶予期間:残り92日
警告:本通知をもって、最終カウントダウンを開始します


「……これは冗談、だろ?」

「残念ながら、現実だ」

男は静かに段ボールを足元に置き、玄関先に腰を下ろした。

「私の名は黒峰クロウ。コードネーム“NEET-X”。 君のような引きこもりニートに“選択”をさせるために動いている」

「は?」

「その通知は、“社会的消去”の対象になった証だ」


“社会的消去”──リセット機構の真実

クロウは端的に語った。

「“リセット機構”とは、引きこもりや長期無職者を“存在しなかったこと”にする仕組みだ。 手口は巧妙だ。

  • 公的手続きからの除外
  • 医療・年金データの破棄
  • SNSや検索結果からの消去
  • ご近所づきあいからの無言の隔離

まるで初めから存在していなかったかのように。 記憶、記録、関係性すべてが徐々に“社会から剥がされていく”」

「バカな……そんなの、ありえない……」

「ならば、これを見るがいい──」

クロウが差し出したスマートデバイスには、「極秘・抹消対象リスト」と書かれたデータが映し出されていた。

そこには、確かに「SHIRASAKI NAOTO」の文字。


二つの選択肢

「抹消なんて……そんなのある訳ない!俺が……俺が何をしたって言うんだよ!?意味わかんねぇよ!ふざけんなよ!!」

直人は顔を真っ赤にし、震える手で通知書を握りしめた。肩が上下に波打ち、呼吸も荒い。

声は怒りと混乱でかすれ、言葉が追いつかないほどだった。

「……落ち着け。決まったわけではない。君にはまだ二つの選択肢がある。

1つは何もせずこのまま社会的に消える。 もう1つは、私と共に今の自分を変え、自分の人生をしっかりと歩む事。

私の任務は後者を選択した者を導くことだ。」

そう言ってクロウは段ボールの中から黒いノートを取り出す。

『NEETレベルアップノート:生存戦略編』

ノートの中身は、ゲーム感覚でポイントが貯まる仕組みだった。

  • カーテンを開ける(1pt)
  • 顔を洗う(1pt)
  • 外に出る(3pt)
  • コンビニで買い物する(4pt)
  • 他人に話しかける(5pt)

「まずは1ポイントでいい。小さな行動が、大きな変化に繋がる」


はじめの一歩

クロウが立ち去ったあと、直人はしばらくその場に座り込んでいた。 ノートを開き、最初の項目「カーテンを開ける」に目を落とす。

“こんなので変われるわけがない”

でも、

“このままじゃ、本当に消されてしまうのか……? 俺の存在って、そんなに簡単に抹消できるものなのか……”

半信半疑だった。そのまま ぎこちなく窓へ近づき、カーテンの端をつまむ。

シャッと引いた瞬間、光が差し込んだ。

「あ……」

まぶしい。 傾きかけた夕方の日差しが1日の終わりを告げようとしていた。

「これで……1ポイント?」

何に使える訳でもないポイントだが、ほんの少しの充足感があった。


次回予告:「脱・引きこもりミッション開始!社会との接点を探せ」

直人が“外の世界”へ一歩踏み出す?

コンビニへ向かう通りすがりに、近所の子供の「こんにちは~」。その時、直人は——。

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