第5話「声を出すバイトに挑戦!“いらっしゃいませ”が言えますか?」

第5話「声を出すバイトに挑戦!“いらっしゃいませ”が言えますか?」

NEET-Xの次なる指令

「直人。そろそろ、“働く”という体験に触れてみるべきだろう」

朝、インターホンに残されたNEET-Xからの新たな録画メッセージ。

画面の中の黒峰クロウは、変わらぬ落ち着いた声でそう告げた。

「もちろん、いきなり就職とは言わない。まずは短時間、声を出すバイトに挑戦だ」

黒い封筒がポストに投函されていた。
中には、あるチェーン系スーパーのバイト募集チラシと、仮応募が記入された紙が同封されていた。

“体験バイト:お試し2時間・レジ打ちサポート業務”

「……レジって、声……出すんだよな」

直人の喉が、緊張で乾いた。


「いらっしゃいませ」が遠すぎる

スーパーの制服を貸与され、更衣室で着替える直人。
スタッフ名札には「しらさき」とだけ書かれていた。

出勤は14時から。
混雑する時間帯を避けて設定されていたが、直人には十分すぎる挑戦だった。

店舗マネージャーの「西原さん」は、朗らかな40代の男性だった。

「気楽にね、声は無理に出さなくてもOK。まずは立って笑顔で、袋詰めの補助をお願いできれば」

「……はい」

だが、その“はい”すら蚊の鳴くような声だった。

レジの横に立つ。
店内にはBGMと、商品のバーコードを読む音が混ざる。

最初の10分間、直人は何もできなかった。

「……笑顔……て、どうやるんだっけ……」

自分の頬が引きつっているのがわかる。
お客の目が怖い。

その時——

小さな子ども連れの女性が会計を終え、カゴを袋に詰めていた。

「ありがとうね」

何気ない一言。

「……え?」

直人の目が丸くなった。
彼女は直人に言ったのだ。

「助かりました、ありがとう」

それに対して、彼の口が動いた。

「……あ、ありがとうございました……」

声が出た。


小さな声と、スタッフの眼差し

「今の、すごく自然だったよ」

西原さんがそう声をかけてきた。

「“いらっしゃいませ”や“ありがとうございました”って、形だけじゃなくて、心がこもると全然違う。今日みたいに自然な反応ができるなら、直人くんなら大丈夫」

「……自然、でしたか……?」

「うん。最初はね、“言わなきゃ”って気負いすぎると逆に言えないもんだよ」

直人はその言葉に少しだけ背筋が伸びた。

帰り際、西原さんが笑顔で言った。

「また、いつでも来ていいからね」

直人は、深く頭を下げた。


ノートに刻まれる“労働”の証

帰宅後、直人はいつものようにノートを広げた。

– 短時間バイトを体験する(15pt)

記入欄に達成のチェックを入れ、トータルは45ポイントに達した。

「45……思ったより、進んでる」

静かな自室。
でも、心の中は少しだけ、騒がしくて、あたたかい。


次回予告:「電話をかけろ!?未知との会話ゾーンへ突入」

次に待ち受けるのは、外との“会話”の極地——電話。

相手の顔が見えない、声だけでのやり取り。

それは、コミュ障にとって最大級の恐怖とも言える壁だった。

直人は、この次なる試練を越えることができるのか。

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