職場体験、スタートの朝
目覚ましのアラームが鳴ったのは午前6時30分。
白崎直人は、ベッドの中で数秒だけ目を閉じたまま現実を噛みしめていた。
「……今日から、働く……」
職場体験とはいえ、“初めての勤務”には違いない。
あの面接から数日。
結果通知が届き、「1週間の職場体験」を条件に参加が決まった。
勤務先は、地元の印刷会社の事務補助。
PC入力や資料整理が主な仕事で、フルタイムではなく1日4時間の短時間勤務。
服装も自由。
最低限のマナーとやる気があれば大丈夫だと、面接官は言っていた。
それでも、直人にとっては一大事だった。
出勤への道のり
午前8時。
家を出て、駅までの道を歩く。
背中のリュックには、筆記用具、メモ帳、そしてレベルアップノート。
制服ではないが、少しだけ襟付きのシャツを選んだ。
道行くサラリーマンや高校生たちの流れに、自分が混ざっている感覚。
それだけで、少し誇らしい気持ちになった。
「これが、“社会”の一部にいるってことなのかな」
職場という世界
出迎えてくれたのは、笑顔の事務員女性「藤原さん」だった。
「今日からよろしくね。無理せず、わからないことはすぐ聞いてね」
優しいトーン。
そのひと言に救われる。
初日の仕事内容は、伝票のチェックと、エクセル入力作業。
PCは使ったことがあったが、業務の形式は初めてだった。
それでも、藤原さんはひとつひとつ丁寧に教えてくれた。
午前中のうちに、10件のデータを入力し終えた。
「これで合ってますか……?」
「うん、丁寧にやってるね。すごく助かってるよ」
その言葉に、胸が熱くなる。
休憩室でのひととき
10時30分——休憩の時間。
直人は一人で隅に座っていた。
だが、コーヒーを手にした藤原さんが、向かいの席に座った。
「初日、どう?」
「……緊張しましたけど、なんとか……」
「ふふ、でもちゃんと出来てるよ。すごいと思う」
雑談は数分だったが、直人には十分すぎる交流だった。
「……俺、ちゃんと“働いてる”んだな……」
心の中で、そう呟いた。
4時間後の達成感
勤務終了時、直人は軽く頭を下げて退勤した。
ビルを出て、外の風を感じながら思った。
「今日、ちゃんと1日働いた」
帰り道、ノートを取り出し、記入欄に達成チェックを入れた。
– 職場体験で初日を働ききる(30pt)
累計ポイント:135pt。
数字よりも、胸の中に確かな実感があった。
次回予告:「職場に自分の居場所はあるのか?」
働き始めた直人だが、職場という“共同体”の中に居続けることは、新たな課題を生む。
会話、空気、距離感。
“職場の中の自分”を、直人はどう築いていくのか?