第18話「役に立てた喜び!初めてのありがとう」

第18話「役に立てた喜び!初めてのありがとう」

午後4時50分、雑務指示からのスタート

白崎直人は、会社のデスクで書類をホチキスで留めていた。
ようやくPC操作にも少し慣れてきたころだ。

まだ任されるのは“誰でもできる雑務”ばかり。
正直、悔しい気持ちがないわけではなかった。

でも、今の彼にはひとつの目標があった。
「ここにいていい」と、自分の居場所を確かめること。

──そして今日、その第一歩となる“事件”が起きる。


忘れ物を届けるという小さなミッション

「白崎くん。これ、青木さんのファイルなんだけど、席に置きっぱなしで帰っちゃったみたいで……」

事務所のパート女性が困った顔で彼に声をかけた。

「もし悪いんだけど、まだフロアに残ってたら届けてもらえない?」

直人は立ち上がり、思わずうなずいた。

「……はい、わかりました」

ファイルを両手で持ち、階段を駆け上がる。
3階の営業課フロア──あまり足を踏み入れたことのない領域だ。

緊張しながらも「すみません!」と小声で何人かに尋ね、ようやく青木という名前のデスクを見つけた。

幸い、彼女はまだ自席に残っていた。


「ありがとう」が心を打つ

「すみません、これ……置き忘れていたファイルをお預かりしました」

少し声が震えていたが、直人は丁寧に手渡した。

青木は、一瞬きょとんとした顔をしたあと、ぱっと笑った。

「え、助かりました!ありがとう〜。これ無かったら明日やばかったです!」

直人の胸に、何か熱いものが流れ込んだ。

——ありがとう。

たった一言。
でも、心の奥に染み渡るような温度を持っていた。

その場で深く会釈してフロアを後にした直人は、階段の踊り場で小さく拳を握った。

「……ありがとう、って……いいな」


“必要とされた”実感

これまで、社会との接点は恐怖だった。

否定されること。怒られること。呆れられること。
そういった記憶が、直人をずっと引きこもらせていた。

けれど、今日の“ありがとう”は違った。
自分の行動が、誰かの役に立ったのだ。

そして、それを“認めてもらえた”。

──この実感こそが、彼にとって初めての報酬だった。

「……これが、仕事か……」

心の奥で、小さく呟く。
今までわからなかった“働く意味”が、わずかに見えた気がした。


インターホンが再び点滅する夜

夜8時、部屋に戻ると、またもやインターホンが点滅していた。
タイミングは、きっかり「18:07」。

NEET-X、いや──黒峰クロウの録画だった。

「白崎直人。今日、君はまたひとつ、社会に足跡を残したようだな」

映像の中のクロウは、わずかに口角を上げたように見えた。

「“ありがとう”とは、他者からの正式な承認。
社会においてそれは通貨と同じ価値を持つと考えていい。
君は今日、その通貨を手に入れたわけだ」

画面が切り替わり、黒いノートの新たなページが映し出された。

【本日の実績】

  • 仕事で人を助けた(8pt)
  • 直接的に感謝された(10pt)
  • 自主的に行動した(6pt)

合計:24pt獲得!

クロウの声が再び重なる。

「……着実に、君は変わっている。だが、まだ油断するな。
“ありがとう”の影には、“期待”が生まれる。
その期待が、次の試練になるだろう」

録画は、そこで終了した。


次回予告:「試される信頼!“期待”とどう向き合うか?」

初めての「ありがとう」を手に入れた直人。
だが、その喜びの裏には「次もきっと」という期待の影が——。

彼は“期待される重さ”とどう向き合うのか?
次回、「第19話 試される信頼!“期待”とどう向き合うか?」

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