第19話「試される信頼!“期待”とどう向き合うか?」

第19話「試される信頼!“期待”とどう向き合うか?」

午前9時、呼び出しのチャイム

その朝、直人は少し早めに出社し、自分のデスクで昨日の業務内容を整理していた。

初めて「ありがとう」と言われた前日から一夜明け、まだその余韻が残っている。
まるで昨日までの世界が少し違って見えるような、そんな心持ちで出社したのだった。

だが——

「白崎くん、ちょっといい?」

オフィスに響いた課長の声は、思った以上に鋭く、乾いていた。

直人の背筋がぴんと伸びる。

(……なにか、やらかしたか?)

緊張しながら立ち上がり、会議室へと向かう。
そこには課長ともうひとり、女性の先輩・佐伯が座っていた。

扉が閉まる音がやけに重く響いた。


与えられた“新しい業務”

「白崎くん、今度のA社案件、補佐として入ってもらうから」

唐突に言われた言葉に、直人は一瞬思考が止まった。

A社といえば、今の部署が扱う中では比較的“重要な顧客”であり、課長も定期的に報告を求める案件だと聞いていた。

(……補佐?俺が?)

「佐伯が主担当だけど、資料整理や事前準備、同行など全部サポートして。あと、来週の打ち合わせには一緒に出席してね」

直人は目を見開いたまま、黙って頷くしかなかった。

「……はい、承知しました」

言葉を絞り出すと、課長は小さく頷いた。

「頼むよ、信頼してるから」

——信頼してるから。

その言葉は、嬉しくもあり、同時に強烈なプレッシャーでもあった。


信頼が怖い──過去の記憶が蘇る

会議室を出た直人は、机に戻っても動悸が収まらなかった。

“信頼”という言葉が、こんなにも胸に刺さるなんて思わなかった。

(信頼されて、それを裏切ったことがある)

昔、バイト先で大事な発注業務を任されたとき——
ミスをして、取り返しのつかない在庫トラブルを起こした。

あのときの叱責、周囲の失望の目、そして自分を責め続けた数週間。
以来、「信頼されること」がどこか怖くなっていた。

(また同じことを繰り返すかもしれない……)

冷たい汗が背中を伝う。
足元が不安定な気がした。


声をかけてくれたのは、あの人だった

昼休み、社内の休憩スペースでぼんやりしていると、佐伯が隣にやってきた。

「直人くん、大丈夫?」

彼女は珍しく、名前で呼んできた。

直人は一瞬戸惑ったが、小さく頷く。

「……正直、ちょっと怖いです」

素直な気持ちを吐露すると、佐伯はふっと笑った。

「うん、それでいいと思うよ。怖いって思えるのは、真剣な証拠だし」

彼女は缶コーヒーを開けながら、続けた。

「最初からうまくやれるなんて思ってないから。私も直人くんに“完璧”は求めてないよ。でも、“逃げずにやろうとしてる姿勢”は、すごく信頼してる」

……信頼。

再びその言葉が胸に響く。

でも、今度は——少しだけ温かい響きに聞こえた。


資料作成の夜、ノートを開く

その夜、直人は一人、自宅の机に向かっていた。

佐伯から渡されたA社の過去資料をまとめ、プレゼン資料の骨子を作っていた。

「昔だったら、絶対やらなかったな……」

そう呟きながら、彼はノートPCの横に置かれた“あのノート”を見た。

『NEETレベルアップノート:社会編』

そのページには、こう記されていた。

– 信頼に応える行動をする(15pt)

直人はふっと笑った。

(……行動か)

自分が本当に“変わろう”としている。
少しずつ、社会の中で“誰かの役に立とう”としている。

そのことを、信じてもいいのかもしれない。


そして、週明けのプレゼン同行へ

数日後、直人はスーツを着て、佐伯とともにA社の打ち合わせに向かった。

取引先の会議室で資料を配り、彼なりの説明を補足する場面もあった。

プレゼンの途中、佐伯がふと視線を向けた。

「この部分は、白崎が整理してくれた内容です。詳しく説明できますか?」

咄嗟の振りに一瞬戸惑いながらも、直人は立ち上がり、震える声で説明した。

決して流暢ではなかった。
でも、相手の担当者はしっかりと耳を傾けてくれた。

会議後、A社の担当が言った。

「分かりやすかったですよ、ありがとうございました」

——ありがとう。

それは、誰かの役に立てた証。
たしかな“信頼への返答”だった。


夕暮れの帰り道、空は高く

帰り道、佐伯がぽつりと呟いた。

「今日の直人くん、よかったよ。少しずつ、だけど確実に前に進んでる」

その言葉に、直人は照れ臭そうに笑いながら、小さく頷いた。

「……ありがとうございます。ちょっとずつでも、進みたいです」

「うん、その調子」

夕焼け空が、ビルの隙間から覗いていた。

信頼とは、期待とは、応えようとする“意志”から始まる。
今の直人には、それがある。


次回予告:「緊急対応!直人、初めてのトラブルシュート」

A社の案件で、思わぬトラブルが発生。
直人が急遽“対応役”として動くことに。

緊張と混乱の中、彼が見せた“成長”とは——?

次回、第20話もお楽しみに。

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