3日目の通達
「明日は、少し動きのある作業に入ってもらうかも」
2日目の終わり際、事務員の藤原さんからそう声をかけられた。
「動きのある……?」
「書類の仕分けと配送チェック。2人ペアでやることが多いの」
その瞬間、直人の中に緊張が走った。
“一人じゃない”
“誰かと一緒に作業する”
それは、学校やアルバイトでも避けてきたことだった。
「また足引っ張ったらどうしよう……」
けれど、レベルアップノートに記されたミッションの項目が、静かに背中を押していた。
– 他人と共同作業を行う(25pt)
チーム作業の朝
翌朝、直人はいつもより早く出勤した。
落ち着かない気持ちを整理するため、少しでも早く“職場の空気”に慣れたかった。
9時きっかり。
「じゃあ今日は、白崎くんは斉藤くんと一緒に、会議資料の仕分けと運搬、お願いしていい?」
そう声をかけられ、振り返ると、スラッとした体格の若い男性がこちらに会釈してきた。
「よろしく。重いのもあるけど、分担すれば大丈夫だから」
「……よ、よろしくお願いします……」
その声はかすれていたが、なんとか出せた。
言葉をつなぐ難しさと、一歩
作業は、会議室ごとに異なる部数の資料をまとめ、台車に積んで運ぶという内容だった。
分担のためには、確認が必要だった。
「えっと……こっち、10部でしたっけ?」
「うん、それ10部。ありがとう」
「次の会議室って……3階?」
「そうそう、あのエレベーター使えば近いよ」
会話は、簡潔なものだった。
けれど、その一言一言が、直人には大きな一歩だった。
会話を避けるクセ、目を合わせない癖——
それらが少しずつほどけていくようだった。
「助かったよ」
2時間の作業が終わり、戻ってきた休憩室で、斉藤が笑顔で言った。
「直人くん、助かったよ。手際良かったし、気配りもあった」
「……本当ですか?」
「うん。俺、1人より2人の方が作業しやすかったな」
直人の中で、何かが柔らかく、温かく、動いた気がした。
“自分の存在が、他人の中で意味を持った”
それは、これまでで最大の実感だった。
ノートの重み
帰宅後、いつものようにノートを開く。
– 他人と共同作業を行う(達成:25pt)
累計:180ポイント。
ページの端が、少し擦れて柔らかくなっていた。
「俺、このノートのおかげで、ここまで来れたんだな……」
直人は、そのページをそっと閉じた。
次回予告:「最終日目前!“ありがとう”を伝える勇気」
職場体験も、いよいよ残りわずか。
最後のミッションは、「感謝を伝えること」。
照れくさくても、ぎこちなくても。
直人は、自分の言葉で“ありがとう”を届けられるのか?