第12話「最終日目前!“ありがとう”を伝える勇気」

最後の出勤日前夜

白崎直人は、布団の中で静かに目を閉じていた。

明日は、職場体験の最終日。

1週間——短いようで、とてつもなく長かった日々。

“たった数日で、こんなにも人は変われるのか”

そんな感覚が、確かにあった。

でも今夜、彼の胸の中には、別の不安が浮かんでいた。

「ありがとうって……ちゃんと、言えるだろうか」

レベルアップノートの指令

ノートの最終ページに記された項目。

– 感謝を自分の言葉で伝える(20pt)

これまでのミッションは、“行動”だった。

外に出る、話す、電話する、働く。

でも今回は、“感情”を言葉にするという試練だった。

「言わなくても伝わる、って思ってたけど……

それって、逃げてただけかもしれない」

直人は、ノートを閉じて、深く息を吐いた。

最終日の朝

職場の空気は、いつもと変わらなかった。

いつもの挨拶。

いつもの席。

でも直人には、すべてが少しだけ違って見えた。

「今日で終わりか……」

午前の業務を淡々とこなしているうちに、時間は過ぎていく。

残り1時間。

心の中では、ずっとタイミングを探していた。

“いつ、言えばいい?”

“誰から、声をかければいい?”

そして——

伝えた言葉

休憩室で、藤原さんが席に戻ろうとしたとき。

「……あの」

直人が、少しだけ前に出て声をかけた。

「今週、ありがとうございました。

すごく不安だったけど、藤原さんが優しくしてくれて、助かりました」

藤原さんは、一瞬驚いたあとに微笑んだ。

「こちらこそ。頑張ってたよ。応援してるね」

続けて、斉藤くんにも。

「一緒に作業した時、すごく楽しかったです。

あの時、ちゃんと自分が“役に立てた”気がしました」

「ありがとう。……って言われると、照れるけど、うれしいな」

直人の中に、小さな灯がともった。

最後の退勤

終業のチャイム。

直人は、職員全員に軽く頭を下げて事務所を出た。

ビルの外で、ひとり深呼吸する。

空は青く、風はやさしかった。

「……言えたな、ちゃんと」

自分の感情を、自分の声で届けられた。

それは、誰に褒められるよりも、自分自身を誇らしく思える瞬間だった。

ポイントと“卒業”

– 感謝を自分の言葉で伝える(達成:20pt)

累計:200ポイント。

レベルアップノートの最終ページには、小さなマークが現れていた。

MISSION CLEAR

“NEETレベル:社会接続段階へ”

直人はそっとノートを閉じた。

「でも、ここが“ゴール”じゃない。

むしろ、ここからが……俺のスタートだ」

次回予告:「第一章・完結!スーツを着て、外に立つ日」

職場体験を経て、直人が選んだ“次の一歩”。

それは、自分の足で“面接会場”へ向かう決意だった。

次回、物語は一区切り——そして、新たな章へ。

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