第13話「面接会場へ向かうその朝、試される覚悟」

第13話「面接会場へ向かうその朝、試される覚悟」

旅立ちの朝、鳴り響くアラーム

午前7時ちょうど。
部屋に置かれた古びたスマホから、少し遅れてセットされたアラームが鳴り響いた。

「……ん……」

白崎直人は布団の中でまどろみながら、手を伸ばしてアラームを止めた。

今日の予定は明確だった。

“初めての本格的な就職面接”。

それは彼にとって、社会の門を叩く第一歩であり、これまでの訓練の成果を試される日でもある。

「……起きなきゃな」

寝起きの声はかすれていた。
それでも、以前の彼とは違う。
朝にちゃんと起きる、それだけのことが彼にとっては大きな進歩だった。

鏡の前で、ワイシャツのボタンをかける。
クリーニングに出していたスーツは昨日取りに行っておいた。

ネクタイを結ぶ手が震える。
何度もやり直し、ようやく見られる形になった。

そしてポケットには、NEETレベルアップノートが折り畳まれて入っていた。

– 面接に行く(30pt)

その文字が、ページの中央に強調されて書かれている。

「俺、ここまで来たんだな……」

呟いた声には、不思議と迷いがなかった。


交差点の向こう側には“面接会場”

家を出てから、電車に乗り換え、駅から歩く。
地図アプリを開きながらも、道に迷わないよう注意深く進んだ。

駅前の交差点に差し掛かったとき、ふと、直人は足を止めた。

向こう側には、今日の目的地——面接会場の入るビルが見えている。

「……緊張してきた……」

数ヶ月前の直人なら、この段階で引き返していただろう。
だけど、今の彼には少しずつでも“進む理由”がある。

クロウの言葉が脳裏をよぎる。
『自分の人生を歩む覚悟は、試される場面でこそ問われる』

彼はゆっくりと青信号を渡り始めた。

——歩幅が、昨日より広い。


面接直前、最後の自己確認

エレベーターの前で待つ間、直人は小さく深呼吸をした。
ネクタイを軽く直し、背筋を伸ばす。

手には面接用に準備した履歴書のファイル。
そして、その裏表紙に貼られた付箋。

『自分を偽らず、素直な言葉で話す』

それはNEET-X、クロウがこっそり書いてくれていたメッセージだった。

(俺は、何者でもない。
でも、何者かになろうとしたんだ)

面接官の前で、自分がどれだけのことを話せるかは分からない。
だけど、今日ここに来たこと。
それが、何よりの“証明”だった。

エレベーターのドアが開いた。
直人は深く一礼し、面接のフロアへと足を踏み入れた。


面接は戦いではない、出会いの場だった

面接室に通され、最初の数分は緊張で声が震えた。

「自己紹介をお願いします」

その一言に、直人は口を開いた。

「白崎直人、25歳です。空白期間がありますが、ここ数ヶ月、自分を変える訓練をしてきました」

嘘はなかった。
ただ、それ以上に、言葉に“芯”があった。

面接官の目が優しくなったのが分かった。

「具体的には、どんなことを?」

「社会との接点を増やす訓練をしました。買い物、会話、チーム作業も体験しました」

会話のキャッチボールが続く中で、直人は初めて“面接とは会話”であると知る。

それは“評価”ではなく、“理解”のための時間。

自分が何者かを伝えるのではなく、“これからどうなりたいか”を共有する場——。


面接後の空、少しだけ広く見えた

面接が終わり、ビルの外へ出た。
直人は空を見上げた。

「……終わった」

成功したかどうかは分からない。
けれど、自分の足で歩き、自分の言葉で話し、自分の意志で答えた。

それが今は、何よりの“合格”だった。

カバンからノートを取り出す。

– 面接に行く(30pt)達成

「……俺、やったぞ」

初めての“達成感”に、目の奥がじんわりと熱くなる。


次回予告:「メールが来た!運命の通知、開封せよ」

面接後、家に戻った直人のスマホに、1通のメールが届く。

採用通知か、それとも……?

次回、人生がまた一歩、動き出す。

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