旅立ちの朝、鳴り響くアラーム
午前7時ちょうど。
部屋に置かれた古びたスマホから、少し遅れてセットされたアラームが鳴り響いた。
「……ん……」
白崎直人は布団の中でまどろみながら、手を伸ばしてアラームを止めた。
今日の予定は明確だった。
“初めての本格的な就職面接”。
それは彼にとって、社会の門を叩く第一歩であり、これまでの訓練の成果を試される日でもある。
「……起きなきゃな」
寝起きの声はかすれていた。
それでも、以前の彼とは違う。
朝にちゃんと起きる、それだけのことが彼にとっては大きな進歩だった。
鏡の前で、ワイシャツのボタンをかける。
クリーニングに出していたスーツは昨日取りに行っておいた。
ネクタイを結ぶ手が震える。
何度もやり直し、ようやく見られる形になった。
そしてポケットには、NEETレベルアップノートが折り畳まれて入っていた。
– 面接に行く(30pt)
その文字が、ページの中央に強調されて書かれている。
「俺、ここまで来たんだな……」
呟いた声には、不思議と迷いがなかった。
交差点の向こう側には“面接会場”
家を出てから、電車に乗り換え、駅から歩く。
地図アプリを開きながらも、道に迷わないよう注意深く進んだ。
駅前の交差点に差し掛かったとき、ふと、直人は足を止めた。
向こう側には、今日の目的地——面接会場の入るビルが見えている。
「……緊張してきた……」
数ヶ月前の直人なら、この段階で引き返していただろう。
だけど、今の彼には少しずつでも“進む理由”がある。
クロウの言葉が脳裏をよぎる。
『自分の人生を歩む覚悟は、試される場面でこそ問われる』
彼はゆっくりと青信号を渡り始めた。
——歩幅が、昨日より広い。
面接直前、最後の自己確認
エレベーターの前で待つ間、直人は小さく深呼吸をした。
ネクタイを軽く直し、背筋を伸ばす。
手には面接用に準備した履歴書のファイル。
そして、その裏表紙に貼られた付箋。
『自分を偽らず、素直な言葉で話す』
それはNEET-X、クロウがこっそり書いてくれていたメッセージだった。
(俺は、何者でもない。
でも、何者かになろうとしたんだ)
面接官の前で、自分がどれだけのことを話せるかは分からない。
だけど、今日ここに来たこと。
それが、何よりの“証明”だった。
エレベーターのドアが開いた。
直人は深く一礼し、面接のフロアへと足を踏み入れた。
面接は戦いではない、出会いの場だった
面接室に通され、最初の数分は緊張で声が震えた。
「自己紹介をお願いします」
その一言に、直人は口を開いた。
「白崎直人、25歳です。空白期間がありますが、ここ数ヶ月、自分を変える訓練をしてきました」
嘘はなかった。
ただ、それ以上に、言葉に“芯”があった。
面接官の目が優しくなったのが分かった。
「具体的には、どんなことを?」
「社会との接点を増やす訓練をしました。買い物、会話、チーム作業も体験しました」
会話のキャッチボールが続く中で、直人は初めて“面接とは会話”であると知る。
それは“評価”ではなく、“理解”のための時間。
自分が何者かを伝えるのではなく、“これからどうなりたいか”を共有する場——。
面接後の空、少しだけ広く見えた
面接が終わり、ビルの外へ出た。
直人は空を見上げた。
「……終わった」
成功したかどうかは分からない。
けれど、自分の足で歩き、自分の言葉で話し、自分の意志で答えた。
それが今は、何よりの“合格”だった。
カバンからノートを取り出す。
– 面接に行く(30pt)達成
「……俺、やったぞ」
初めての“達成感”に、目の奥がじんわりと熱くなる。
次回予告:「メールが来た!運命の通知、開封せよ」
面接後、家に戻った直人のスマホに、1通のメールが届く。
採用通知か、それとも……?
次回、人生がまた一歩、動き出す。