第15話「第2章開幕!“仮採用”から始まる試練」

第15話「第2章開幕!“仮採用”から始まる試練」

新しい朝、見知らぬ制服

「……よし、行こう」

玄関の鏡の前で深呼吸をする白崎直人。
その姿は、ほんの数日前までベッドの上で寝巻きのまま1日を終えていた彼とは、まるで別人だった。

胸元には、仮採用者のネームプレート。
上下黒の作業着に身を包んだその姿は、まだ服に着られている印象を否めないが、確かに社会人としての“第一歩”を踏み出していた。

彼が向かうのは、面接の末、仮採用として受け入れてくれた小さな物流倉庫の現場。
契約は「試用期間1か月」。その間に不適格と判断されれば容赦なく契約終了——いわば“崖っぷちの採用”だ。

にもかかわらず、直人の中に不思議な希望があった。

「少しずつだけど、変われてる気がする」

玄関のドアノブを握る手に、微かな震え。
それでも彼は扉を開けた。かつて、あれほど重く感じた扉を、今では自らの意志で押し開く。


現場の洗礼!新しい職場のリアル

「おーい、白崎くん!手、止まってるぞ!」

作業開始から30分後、現場リーダーの声が飛んだ。

直人は慌てて荷物に手を戻す。
冷たい汗が背中を流れる。慣れない動き、想像以上の重さ、そして周囲のテキパキした動きが、すべてプレッシャーだった。

職場は、いわゆる“倉庫バイト”の現場。午前中は主に荷物の仕分け、午後は出荷作業。
社員と契約スタッフ、派遣バイトが混在し、職場の空気は効率重視。個々のスピードと連携が求められる。

直人にとって、その空気は眩しくもあり、恐ろしくもあった。

「自分だけ、時間がゆっくり流れてるみたいだ……」

体力のなさ、判断力の鈍さ、そして周囲との“阿吽の呼吸”にまったく乗れない自分。

だが、彼には一つだけ誇れることがあった。

“諦めなかった”

何度も怒鳴られ、謝り、メモを取り、また怒られながらも、彼は手を止めなかった。
昼休みの休憩所でも、他のスタッフがスマホをいじる中、一人黙々と段取りを復習していた。


仮採用の重みと、社会の洗礼

「白崎くん、ちょっといいか?」

午後の作業後、倉庫内の一角にある簡易事務所に呼ばれた。
上司の工藤主任は、40代後半の小柄な男性。厳しそうに見えるが、どこか人情味のある目をしている。

「今日で3日目。正直、まだまだミスは多い。でも——」

主任は直人の顔を見たまま、言った。

「君は、真剣にやってるな。そういうの、伝わってくるよ」

直人は、驚いた。
この数日、自分の存在が周囲に受け入れられている実感がなく、不安と焦りに飲まれていた。

「……ありがとうございます……!」

言葉が震える。頭を下げるその姿には、心からの感謝がにじんでいた。

「ただな、ここからが本番だ。来週からは出荷量が倍になるし、他の部署との連携も必要になってくる。今のままじゃ乗り切れない。覚悟しておけよ」

「……はい!」

気圧されつつも、直人の心には小さな光が灯っていた。


夜のノート、カウントダウンは76日

その晩。
直人はNEETレベルアップノートを開いた。

【本日の行動】

  • 職場に出勤(10pt)
  • 指示を理解し、作業に従事(15pt)
  • 叱責を受けても逃げ出さない(10pt)
  • 反省と復習(5pt)

合計:40ポイント

ページ下部の「抹消カウントダウン」は、76日に更新されていた。

「……あと76日」

だが、直人の中では、もはや“カウントダウン”という感覚ではなかった。

それは“猶予”ではなく、“変わるための猟期”。
社会の中に居場所を見つけようともがく日々は、苦しくも、確かに生きている実感を伴っていた。


変化の兆しは、外からも

翌朝。
職場へ向かうバスの中、直人は偶然、中学時代の同級生・坂本と出くわした。

「……え? 直人じゃん!マジかよ!」

あまりにも突然で、直人は言葉が出なかった。
坂本は驚きつつも、笑顔で言う。

「変わったなー。てか、今何やってんの?」

「……ちょっと、倉庫で働いてる」

「ああ、いいじゃん。俺も一時期やってたわ。キツイけど、意外と楽しかったろ?」

直人は、初めて“自分の話”を人にした。
坂本と他愛のない会話を交わす中、気づいた。

「俺、普通に話せてる……」

人との関係は、ほんの些細なきっかけで変わる。
社会との接点が“居場所”に変わる——その感覚が、直人の中に芽生えつつあった。


次回予告「信頼を築け!“社会人としての資質”が試される」

初めての現場で汗を流し、少しずつ信頼を得始めた直人。
だが、次に待っていたのは“コミュニケーション能力”と“報連相”の壁だった——。

次回、第16話「信頼の証明!社会人の基本“報連相”に挑む」

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